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メンタルタイムトラベル 誰かの記憶をめぐる旅【 27歳、台湾。はじめてのひとり旅 編 Vol.6 】

おでかけ

人の記憶は時が経つほどに儚いものです。
それでも、何かしらの刺激をもとにその時の情景や感情が呼び起こされる体験を「メンタルタイムトラベル(心的時間旅行)」というそう。
だれかの物語や時間をたどって体験する、旅の記憶。
想いをはせたり、想像したり。心はどこへだっていけるはずです。

 

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INDEX

【27歳、台湾。はじめてのひとり旅 編 Vol.0】
【27歳、台湾。はじめてのひとり旅 編 Vol.1】
【27歳、台湾。はじめてのひとり旅 編 Vol.2】
【27歳、台湾。はじめてのひとり旅 編 Vol.3】
【27歳、台湾。はじめてのひとり旅 編 Vol.4】
【27歳、台湾。はじめてのひとり旅 編 Vol.5】
【27歳、台湾。はじめてのひとり旅 編 Vol.6】
【27歳、台湾。はじめてのひとり旅 編 Vol.7】(順次公開)

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■巡り合わせのありがたさ

 

2日目の目標は台湾のウユニ塩湖と呼ばれている「高美湿地(ガォメイシーディ/こうびしっち)」にいくこと。台湾中部の台中(タイジョン・タイツォン/たいちゅう)にある約300ヘクタールの広大な湿地帯なのですが、あまり人の手が入っていないため、珍しい植物が自生していたり、バードウォッチングや湿地観測の場として知られています。日本とは違う自然に触れてみたかった私にとって、台湾行きを決意した大きな理由でした。

ただ、問題はアクセスの悪さ。僻地ではないにしろ、乗り継ぎと所要時間の難易度は少し高く感じられました。ダイヤを調べても埒が明きそうになかったので「台中の清水駅から直行便のバスがある」という情報を頭に早々にお宿を出発しました。

 

 

まずは台北市から台中市へ向かわなくてはと、高速バスの専用乗り場へ。ですが、着いた施設は人が少なくて所々工事中のような雰囲気です。運航自体はしているようなので数十分待つけれど、バスは一向にやってくる様子がありません。

台中に行きたいんですがとスタッフのお姉さんに話しかけてみました。けれど、たどたどしい英語と中国語の双方一方通行なやりとりでコミュニケーションが成り立たず。お姉さんは困り顔で申し訳なさそうでした。これまで活躍していた紙とペンもこの状況じゃ頼れない。伝えたいのに伝わらない……ふたりして泣きそうな顔で見つめあっていました。

高速鉄道で向かおうかと待合室から立ち去りかけた時、「あの。もしかして日本人なの?」。眼鏡をかけたボブヘアの女性が心配そうな顔でこちらをのぞき込んでいます。「はい。台中に行きたくて、、」ああ、彼女に後光がさしてみえる。救世主だ。早口の中国語で会話している様子を眺めながら、ぼうっとそんなことを考えていました。

 

 

 

「わたしもこれから台中で友人に会うの。台中行きのバス停は別の乗り場に変わったみたい。よかったら一緒にいきましょう。」そう言ってくれた女性と一緒に臨時移動したバス乗り場まで向かい、チケットも無事買うことができました。ばんざい!

彼女の名前はエイミー。台湾にはイングリッシュネームというものがあり、中国語発音とは別の、3つ目の名前にあたる英語名なのだそう。両親や学生時代の先生から付けてもらったり、自分で好きな名前に改名したりと気軽に扱える一方で、パスポートの公的証明書に使われたりもするようです。重要なんだかそうじゃないんだかのバランスが不思議。

10歳ほど年上のエイミーは日本の関東圏で貿易関係の仕事をしていて、とにかく日本語が上手。どこかで習ったの?と聞くと、日本のアニメとアイドルが好きなの!とキラキラした顔でたくさん話してくれました(台湾のテレビ事情によると日本の番組やアニメも放送されていて親しみがあるようです)。好きの熱量って本当に素晴らしい。台北にひとりできたこと、昨日は九份(きゅうふん)へいけたこと、屋台街で胸が躍ったこと、さっきまで心細かったことも。言葉足らずな私の話を彼女はにこやかに聞いてくれました。

 

お喋りに花を咲かせているうちにバスが出発しました。九份行きのバスと比べ快適です。街中を抜け、気付けば高速道路へ。右をみたら高層ビル群。左をみたら自然の雄大な山河。道路を1本挟んだだけでこんなに景色がちがうなんて。

2時間ほど経った頃、もうすぐ着くよとエイミーが教えてくれました。
台北から南下していくほどに田舎風景が色濃く残る台湾で、真ん中に位置する台中は目覚ましい発展の真っただ中。バスの窓からは古い商店の背後で近代的なビルがいくつも建てられている様子が見え、SFを感じる非現実な光景でした。

 

 

 

SFとは程遠いけれど、この日一番気になったマンションです。熊猫の東京?熊猫東京?パンダトーキョー?もう字面がずるい。

 

 

 

■夕と夜の境目、おわりとはじまり

 

古くからの友人なのと紹介されたアヤさんは、エイミーと同い年の女性で黒髪ショートのはっきりした目鼻立ち。よく笑う気さくな人でした。(印刷関係のお仕事をしているそう。初日の福印堂刷屋や田園城市に続き、ここでもまさかの縁です。)

高美湿地にいこうと思ってると話すと、そこ聞いたことあるかも。せっかくだし連れていってあげるよ。どう?とまさかのお誘いが!とんとん拍子で、あれよあれよという間に高美湿地行きの環境が整っていました。ええ、こんなことってあるのかしらと戸惑う私に、楽しいからいいのとケラケラ笑い飛ばすふたり。

目の前の人の望みを叶えようとしたり、優しさの出し惜しみをしない。お互いに良い気持ち。しなやかな思いやりにハッとしました。余裕のないときや何かに集中してるとき、様々な状況や環境で今したくないなと感じることは誰にだってあると思います。心持ち次第ではえいや!とエネルギーがいるけれど、できることならば私もふたりのように手を差し伸べられる人でいたいと思った出来事でした。

 

車で走ること1時間弱でしょうか、海辺が近づいてきました。周りは人や車が多く渋滞気味のよう。急がないと日が暮れちゃうねと言いながらも、ゆっくり流れる車窓風景は満たされる時間でした。

 

 

 

高美湿地に着いた時刻は17時30分。
長い長い桟橋/遊歩道の先にはおおらかに回る風力発電のプロペラ。穏やかに波打つ遠浅の湖面はどこか生き物の気配があって。なにより焼けるような橙とグラデーションの藍がとても甘美です。

人に助けられて、行きたかった場所に辿り着け、見たかった景色を見ることができている。いろんな思いが胸に詰まった私はふたりから離れたところでこっそり涙し、本当に感動すると言葉もなくなるということを噛みしめました。どのくらい無言でいたのかも覚えていませんが、夜がはじまる情景に心が洗われていくようでした。

 

(つづく)

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