広く開けた平野とふたつの山を見下ろせる高台。 33歳の僕がこの郊外に越してきて半年が経とうとしている。
建築や空間のデザインが好きで雑誌や書籍、作品集を読み漁った10代。20代は設計の仕事に熱中した8年間だった。 去年の結婚を機に暮らしや働き方を改めて見つめなおし、仕事を独立させようと決心した。
街の便利さ、田舎のゆたかさ、どちらも大切にしたい気持ちから選んだこの土地と家。 僕たちの暮らしは少しずつ“らしく”なってきたように思う。
[ ある日の8:30 ]
僕の妻は最寄りの駅から数分の、街中にある和菓子屋で週4日ほど働いている。 今朝はいつもよりはやく出勤していった。 朝の日課はグリーンのお手入れだ。毎日観察していると小さな変化に気づけて愛着が深まってくる。
[ ある日の8:45 ]
キッチンで挽き立てのコーヒーを味わいながら山並みの風景を眺める。 この数十分が仕事へ気持ちを切り替える大事な時間。 これまでふたつの季節を過ごしてきた。夏と秋はどんな景色が見れるのだろう。
[ ある日の9:10 ]
午後の打ち合わせで使う資料の最終調整。 昨夜は煮詰まっていたが、すっきりした頭で見返すと意外な発見があったりするものだ。 合間を縫って洗い終わった洗濯物を干す。この家は高台にあるおかげか良い風が入ってくる。今日は窓を開け放してすごそう。
[ ある日の10:40 ]
庭先から声がしたので向かうとご近所の方が畑で育った野菜をお裾分けしてくれた。 人参とスナップえんどう、びわの実まで。豆好きの妻がきっと喜ぶだろうな。 越してきたばかりの頃こそ地域の人の生活が古くから根付く土地で暮らすことに不安があったが、少しずつ馴染めていると感じられるのがうれしい。
[ ある日の12:20 ]
昼食がひとりのときは簡単に済ませることが多い。 今日は、妻とでかけた先で見つけたベーカリーのカンパーニュに野菜やハムをはさんでサンドにしてみる。 在宅中心になったことで慣れなかった料理も少しは様になったように思う。
[ ある日の14:00 ]
近々計画がスタートする、とあるモデルハウスの打ち合わせ。 彼は僕より3歳年下だが価値観で共感できることが多く、7年近い付き合いになる。 いつも新鮮な気づきをくれる仕事仲間であり大事な友人だ。
[ ある日の17:30 ]
仕事を終えた妻が買い物から帰ってきた。 夕飯を作ってくれている間、僕は愛犬のマックと散歩にでかけている。 日が暮れるにつれ、高架下や砂利道にのびる長い影。絵に描いたようなのどかさだが、まったく飽きることがない。
[ ある日の18:45 ]
今夜は昼の友人も交えての夕飯。 今日のお裾分けのこと、夏になったらしてみたいこと、最近読んだ本のこと、それぞれに暮らしや好きなものの話をする。 3人で食卓を囲むのは久しぶりだからだろうか。いつまでも話は尽きず、夜がとっぷり更けるまで語り合ったのだった。