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それぞれの”特別”を見いだすヒントになりますように。

メンタルタイムトラベル 誰かの記憶をめぐる旅【 27歳、台湾。はじめてのひとり旅 編 Vol.4 】

おでかけ

人の記憶は時が経つほどに儚いものです。
それでも、何かしらの刺激をもとにその時の情景や感情が呼び起こされる体験を「メンタルタイムトラベル(心的時間旅行)」というそう。
だれかの物語や時間をたどって体験する、旅の記憶。
想いをはせたり、想像したり。心はどこへだっていけるはずです。

 

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INDEX
メンタルタイムトラベル だれかの記憶をめぐる旅 【27歳、台湾。はじめてのひとり旅 編 Vol.0】

メンタルタイムトラベル だれかの記憶をめぐる旅 【27歳、台湾。はじめてのひとり旅 編 Vol.1】

メンタルタイムトラベル だれかの記憶をめぐる旅 【27歳、台湾。はじめてのひとり旅 編 Vol.2】

メンタルタイムトラベル だれかの記憶をめぐる旅 【27歳、台湾。はじめてのひとり旅 編 Vol.3】

メンタルタイムトラベル だれかの記憶をめぐる旅 【27歳、台湾。はじめてのひとり旅 編 Vol.4】

メンタルタイムトラベル だれかの記憶をめぐる旅 【27歳、台湾。はじめてのひとり旅 編 Vol.5】(順次公開)

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■いざ、ノスタルジックな街へ!

 

これから目指す九份(ジォウフェン/きゅうふん)は、日本人がイメージする台湾の代表的な観光スポットかもしれません。軒先に赤い提灯が彩る風情ある街。1度は訪ねてみたい場所のひとつでした。

台北市から九份に行くルートはバス、タクシー、電車+バスの3つ。今回は乗り換えがなくお財布にも優しいバスを使って目指します。九份行きのバス停は乗車場所が時々変わるようで、私が訪ねた時も違うところに変更されていました。
注意書きの中国語が読めないので大通りの十字路を縦横無尽に渡り歩いて探してみますが、いまいち確証が持てない。どうしようかな、困ったという姿を見ていたのか、タクシーのおじさんが九份行きの高額な送迎プランを勧誘してきました。お金がないのでと断り、失礼かもと思いつつバス停はどこか知らないかと身振り手振りで尋ねると、苦い顔でまくしたてられましたが、最後にそっと指さしてくれたのでした。(カチンとくるよね、ごめんなさい……でもちゃんと教えてくれて優しい。謝謝。)

待っていると乗客らしい人たちが次第に集まってきました。バスの到着とともに現れたプールの監視員みたいなお兄さんが、こっちこっちと手招きしてくれたので乗り込みます。修学旅行にでかける気分です。

 

 

 

グ、ォオォォン!勢いが良すぎる発進で、突如はたらく慣性の法則。都会の道をぬけ山の方へ入っていくにつれ、その力は増していきます。……ん、これはなんというか、横揺れじゃなくて縦揺れもあるのでは。おしりがちょっと痛い。

出発してから1時間と少し。かつて東アジア一の金鉱山として栄えたちいさな街に入ると、山のてっぺんにぼんやりと建物群が見えてきました。あれかな、天空の街みたい!身を乗り出して目を凝らすも、あんなところまで本当にたどり着ける?という立地。バスはそんなのお構いなしにアクセル全開でぐんぐん登っていき、坂道の途中で停まりました。

 

 

 

九份の中心街は3本の通りと枝葉のように分かれた小路で構成されています。メインストリートは露店やお土産屋、レストランなどがひしめきあう基山街(ジーシャンジエ/きざんがい)。縁日のような賑やかさに目移りします。覚悟していたけれど、ものすごく混雑してる。ぞろぞろと連なる人の流れにのって私も歩いてみました。

 

 

 


迷路道のように曲がりくねって、たどり着いたのは石畳の広場。大勢の人がカメラや携帯を向ける先に目をやると、雑誌やネットでよく見る建物と提灯の風景が。わあ、これがあの……!写真は夜景ですが、夕暮れにかけて次第に変わっていく眺めもロマンチックでした。

 

 

 


台湾映画「悲情城市」の舞台になったという豎埼路(けんざきろ)の石階段。いろんなもの、人が大渋滞です。

 

 

 

ほんの少し大通りを逸れるだけで暮らしの一部が垣間見える路地。きらびやかな道も好きですが、こういう道にも惹かれます。ダンジョンで急に現れるセーブポイントみたいな場所。

 

 

 

■ゆらめく香りとおおらかな青の時間

 

こんなふうに路地に入ったり大通りに出たりを楽しんでいると、赤煉瓦が目をひく建物に出会いました。茶藝館「水心月茶坊(シュイシンユィエチャアファン/すいしんげつちゃぼう)」と書いてあります。

入口ではキジトラっぽい看板猫が出迎えてくれました。芸術家の洪志勝という方が28歳からアトリエとして使っていた空間らしく、1階(傾斜に建つため2階が正しそうです)は茶器や茶葉をはじめ絵画、アンティークなども並ぶギャラリースペース。地下へ渦巻く螺旋階段の先は、食事やお茶を味わえるスペース。お茶を飲みたい意思を伝えると、見晴らしのいいテラス席に案内してもらえました。

 

 

 

オーダーしたのは甘いものと中国茶のセット。秋だけに味わえるお茶「桂花金萱(けいかきんせん)」と「烏龍起司蛋糕(ウーロンチースーダンガオ)」という烏龍茶のチーズケーキを選びました。はじめての中国茶。本場の雰囲気にどきどきします。

しばらくしてスタッフの女性がやってきて、中国茶文化のお話から嗜み方のことなど、日本語で丁寧に教えてくれました。中国茶は香りを楽しみつつ、1回で5~6煎くらい飲むものなんですと続けながら、手際よく茶器を並べ、お茶を淹れはじめました。迷いのない手つきは見ていて心地がいい。差し出された桂花金萱は可憐な甘い香り。

それではごゆっくりどうぞと言われ、2煎目を自分で淹れてみると、1煎目よりまるくなった香りと味に楽しくなってきました。やわらかな温度に触れるたび、気持ちもじんわりとほどけていくようです。傍らでふつふつと湯気を立てる鉄瓶が愛おしい。

 

 

 

朝から張っていた気もすっかり弛みきって、ただただぼんやりしていた時間。湿り気を帯びた風がそっと肌をなでると思わず感傷に浸りそうになります。こんな遠いところまで本当に来てしまった。
友人や家族、同僚は今何をして過ごしているのかな。そういえばあの話はどうなったんだろうかなんてのろのろと考えを巡らせていましたが、静謐を湛える海を前にすると、今抱えている悩みや思考はちっぽけに思えてきたのでした。この海の先ではどれだけの人がどんな暮らしをしているんだろう。

 

 

 

 

■奇遇な4人の日本人

 

日没を眺めながら桂花金萱を堪能し尽くしたところで肌寒くなり、宿のある台北市に戻ることに。帰りのバス停は道路に人が広がるほどごった返していました。乗車できるまで1時間以上はかかりそうな雰囲気です。

無事に戻れるのかなと不安になり、最終便の時刻を確認しようとロータリーへ近づいていると、「ちょっと、ほら!黒リュックのあなた!」と呼び止められました。ネイティブな日本語に驚いて振り返ると50代くらいの女性と杖をつく六十路の男性、そして少しの距離をあけて佇む学生風の男性と目が合い、「ひとりできてる?もしかして台北市に戻る?今タクシー呼び止めてるんだけど、シェアでよかったらいかが?」と矢継ぎ早に尋ねられました。

どれも正解。かつ願ってもないお誘い。あまりの唐突さに状況は飲み込めませんでしたが、今を逃すと帰れないかもという直感から「ぜひ!」と返事をする私がいました。女性は「よかった、決まりね。さ、いきましょう」と手招きしてくれました。そしてタクシーの扉が勢いよく閉められると、九份の急こう配をスイスイと下りきり、あっという間に高速道にのったのでした。

 

 

 

台湾という地で見知らぬ老若男女が4人、身を寄せて車内にいる。共通点は日本人というだけ。この時は不思議なシチュエーションだななんて思っていましたが、冷静に振り返ると大胆すぎる選択です。

学生風の男性は予想通り学生で、関東圏の大学に通っている20歳。彼もひとり旅。お金をかけずに旅行できるのかと思い立って、無計画で来たそう。ご飯もほとんど食べてないから、台北についたら速攻ホテルで寝て空腹を紛らわせたいと節約旅をしている人でした。
声をかけてくれたふたりも同じく関東圏の方。六十路の男性は女性から先生と呼ばれていました。明日は友人たちと合流して市内を巡るのだと楽しそうです。頻繁に台湾を訪れているようで、この施設や食べ物がよかった、こんなときは気をつけなさいねなど、いろんなエピソードを交えて優しく教えてくれたのでした。

丸一日ぶりくらいに触れる、日本語の長い会話。相手の機微を会話で感じ取ったり、思ったことをきちんと伝えられるだけでこんなにも気が楽になるんだと発見でした。しばらくお互いの話に花を咲かせていましたが、窓越しに流れる街灯が増えてきた記憶を最後に、私は眠りについてしまいました。



タクシーが停まった気配にハッとして顔をあげると台北駅の目の前。タクシーから降りかけている3人の後を急いで追います。声をかけてもらったお礼を先生に伝えると「人生は一期一会だからね。みんなで晩御飯でもと言いたいところだけど、まだまだ夜は長いから。若者たちは楽しみなさい。それでは解散!」と駅のホームへ颯爽と消えていったのでした。
なんて紳士的な去り際なの。そもそも先生っていったい何者……?最後までおふたりの関係性は聞けずじまいでしたが、有難い帰路になりました。

 

学生さんも見送って、時刻は20時30分。確かに夜はもう少し長いし、タクシーで眠ったおかげで体も元気。
よし。今日最後の目標にしていた夜市に繰りだしてみよう。

 

(つづく)

 

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