人の記憶は時が経つほどに儚いものです。
それでも、何かしらの刺激をもとにその時の情景や感情が呼び起こされる体験を「メンタルタイムトラベル(心的時間旅行)」というそう。
だれかの物語や時間をたどって体験する、旅の記憶。
想いをはせたり、想像したり。心はどこへだっていけるはずです。
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INDEX
メンタルタイムトラベル だれかの記憶をめぐる旅 【鳥取米子編 vol.1】
メンタルタイムトラベル だれかの記憶をめぐる旅 【鳥取米子編 vol.2】
メンタルタイムトラベル だれかの記憶をめぐる旅 【鳥取米子編vol.3】
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湯梨浜町に到着し、松崎駅のホームを出ると大きな門に出迎えられました。
この薄暗さと、ぽつぽつと灯る温かい明かりに気持ちが逸ります。
駅から数分、いよいよお待ちかねのゲストハウス『たみ』とご対面。
元旅館を改装したという、木造二階建て。横に長いです。
声をかけると、キッチンが臨める小窓から、笑顔が似合うお姉さんがひょっこり。
ゲストハウスはやっぱり、はじめましてなのに、この“ただいま、おかえり感”が堪りません。
そうそう、Vol.2のお話では、写真がぐっと少なくなります。
撮り忘れたわけではなく、実は『たみ』では写真撮影が一切禁止。
HPの表現を少し拝借し、そのコンセプトをとても簡単に説明すると
【いつでもどこでも、インターネットがそばにあることが当たり前になっている昨今、
旅をしている時間くらいは意図的に忘れて、それらに頼らず人間の身体を駆使し、思い出を心に残してみてほしい】ということ。
こうして原稿を書いている端から、この写真は何時に撮ったもの…と、その瞬間を遡っている。
そんな便利な世の中ですが、確かに、自分の五感の可能性を最大限に発揮したほうが、思い出は全身に刻まれていく気がします。
それを体感したお話はまた後ほど。
余談ですが、スマホなんてなかった小学生の時、友達との待ち合わせってどうしてたっけ?とふと考えました。
約束の時間に、遅れずに行く。相手への信頼が大前提にある。
それが当たり前で、不便なんてありませんでした。
ネットが傍にあると忘れてしまいそうになるけれど、この感覚も大切にしたいですよね。
文字ばかりになりますが、どうぞお付き合いください。
さて、ドミトリーに荷物を置き、ひと息ついてから、おすすめされた銭湯へ行くことに。ここ湯梨浜町の湯は温泉(湯)からきているという県内屈指の温泉地。
目の前に広がる東郷湖の湖底からは、温泉が湧出しているそうです。
この間を行きます。大人一人がギリギリ通れるくらい。笑
「たみ」に着く前に目の前を通ったはずなのに全然気づかなかった!
路地裏の奥に沸く『寿湯』。
地元の方御用達の、なんとも味があるお風呂です。
(ちなみにお手洗いは、外に併設されていてぼっとんタイプ…!)
カランからたらいにお湯を張って浴びる、セルフシャワースタイル。
4、5人入れば窮屈になりそうな浴槽には、あっつあつのお湯がたっぷり。
1日歩き回った汗を流して、さっぱり。いいお湯でした。
宿に戻ったら、皆それぞれの話に花を咲かせていて楽しそう。
見知らぬ人にも気軽に話しかけられる、ゲストハウスの雰囲気が大好きです。
この交流こそが醍醐味。
スタッフの方に辺りのことを教えてもらったり、足湯を探したり(結局見つけられなかった!)、湖畔をぶらぶら散策してみたりして夜を過ごしました。
歩き疲れていたので、その日はぐっすり。明日もまだまだ続きます。
■2日目
2日目のはじまりは、『たみ』での朝ごはんから。
実は昨夕、宿に着いて宿泊費を支払う際に「+500円で朝食の予約ができます」とのアナウンスが。
そんなのするしかない!
3種類から選べましたが、ふたりが目を輝かせてチョイスしたのは、地元産のしじみ汁がついたおむすびのセット。
(しじみは東郷湖の特産物で、粒の大きさとその色つやから「黒いダイヤ」とも称される逸品だそう)
それに惹かれすぎて、残り2種の詳細を思い出せません。笑
これが前日夜からの、密かな楽しみでした。
運ばれてきたそれは、奥ゆかしく品がありながらも堂々たる佇まい。
窓から差し込む夏の朝のさわやかな光が、おむすびのお米をつやつやと、そして、しじみのお味噌汁から昇る湯気を一筋ひと筋輝かせています。
やさしい逆光と自然光に、完璧な構図。…シャッターを切りたい気持ちをぐっと堪え、
瞬きするのも惜しんで、自分の目にしっかり焼き付けようと思いました。
こうなれば、多少の目の渇きも本望です。
こうして残した記憶は、その時のにおいとか温かさとかまで、鮮明に蘇るような気がします。
1年前の朧気な記憶を遡り原稿を書いていますが、このシーンだけはしっかりと思い出せる自分がいる。
撮影禁止、の真髄を感じたのでした。
いざ朝食を味わうと…うーん、別格のおいしさ。
おむすびにお味噌汁にお漬物…ああ、日本人でよかった…!
くつろいでいるとはいえ、旅先でどこか落ち着かない心を、そっと包み込んでくれるような温かさがありました。
良い朝のスタートを切ったわたしたちは、周辺のお店を訪ねてみることに。
Iターンなどでこの地に縁を結んだ若い方たちが出店し、盛り上がりを魅せているとのこと。
そんな2日目の様子は、Vol.3にてお届けします。
(つづく)