株式会社I.D.Works

暮らしのハレとケ。
お家の床の間のように
それぞれの”特別”を見いだすヒントになりますように。

それから、の暮らし。| life.1 つくるがきほん

住まい

それから、の暮らし。

家に個性があるように、暮らしぶりにもそれぞれの豊かさがありました。
お施主さまの1日を訪ねるお家の紀行文です。

 

==============
life.1 つくるがきほん
リノベーション住宅 / 山口市
sewing renovation
==============

 

 

手がもたらす健やかさ

 

わたしたちには手があります。そして多かれ少なかれ誰もがきっと、生まれてから今まで、その手でなにかをつくりだしてきたはずです。人々の暮らし(例えば、服や食事、住まいなど)をみてもわかるように、つくることは生きて暮らすための根源的なものです。

考えをめぐらせてグッと集中する。思い描くものを自らの手でかたどっていく。 “つくる“は、人の心を健やかにしてくれる大事な営みのように思います。

 

 

 

 

山口市の郊外に住む田村さんも“つくる”が暮らしのすぐそばにあります。
訪ねた日は雨上がりの週末。薄い雲の隙間から落ち着いた青がのぞいていました。記念樹として庭に植えたというブルーベリーはみずみずしく、空に向かってめいっぱい葉を広げています。

 

 

 

家へお邪魔すると、勝手口側から子どものはしゃぐ声が聞こえてきました。1番に出迎えてくれたのは、7歳のお兄ちゃん。その後ろに5歳のお姉ちゃんが続いてやってきました。そして最後まで庭で遊んでいたのは2歳の弟。

こちらまで元気をもらえるような、まぶしい笑顔を向けて「こんにちは!」と挨拶をしてくれました。3人が揃うとまるで花が咲いたようにその場が明るくなります。

 

 

 

 

築47年の平屋をリノベーションしたお家は、柔らかな乳白色と木のやさしさに充ちていました。
家族が孤独を感じない家にしたいとの思いから、LDKとつながる部屋には仕切りがほとんどありません。どこにいても家族の気配を感じることができる、そんな空間。子どもたちも外あそびと変わらない様子で部屋を行ったり来たり、楽しそうです。

「子どもたちには閉じこもって欲しくないなって思っているんです。扉がなくてものれんとか布ものでゆるく仕切ることができるし、3人が成長してどうしても扉が欲しくなったら、アンティークのものを探して、お金を貯めて自分たちで付けてみても良いかなって。」と、奥様の真子さんが話してくれました。

 

 

 

 


▲夫婦ふたりで塗装したシューズクロークには靴が行儀よく並びます。

 

 

 

家づくりと暮らしの変化

 


この時、ここでの暮らしが始まって1年ほど。大きく変化が現れたのは子どもたちだったそうです。

「庭周りでのびのび遊ぶようになりました。今までは住んでいたアパートの駐車場で遊ばせることが多かったんですけど、休日は車が多いので外遊びはどうしても制限があって。今も危ないエリアはありますが、以前より安心して外にいっておいでと言えるかな。この間は『庭にサワガニがでた!』ってお隣さんと一緒にお喋りしているのが家の中まで聞こえてきました。地域の皆さんが育てて下さっていることを有難く感じています。」

 

 

 

 

家ですごす時間が楽しくなったという真子さんは「朝、今まで以上に早く起きられるようになったんです。カーテンをあけて、窓の外の風景をぼーっと眺めたり。今は庭の緑が青々としているので癒されています。」と庭との暮らしを満喫していました。

一方、ご主人は家のお手入れやそうじが趣味になりつつあるそう。「賃貸だと借りている意識があるけれど、つくった家は自分のものだっていう感覚がありますよね。だからかな、細かなところまで掃除をしたりお手入れしようって気持ちが芽生えました。」

 

 

 

 

仕事柄、家を持つことに関心が薄かったというご主人。住宅の見学会に立ち寄ってみても1年ほどは気持ちが固まらなかったものの、次第に「家族がずっと一緒にいることの方がみんなのためになるし、それもいいんじゃないか」と心持ちが変わってきたといいます。

「新築とリノベーションを比べてみたとき、リノベーションのほうがよりおおらかな感じがしておもしろいと感じたんです。かといって何をしてもいいわけではないけれど(笑)。 中古住宅に入った時の空気感ってそれぞれありますよね。今の家はその感覚がすごく良くて。住まわれていた方のベッドとかお風呂グッズとか、暮らしの痕跡があちこちにあったんですけど、それでも不快な気持ちにはならなかったんです。その時は子どもたちの反応も気になっていて。でも、1番嫌がりそうな暗がりの部屋の隅っこや仏壇棚のなかに入って遊びはじめたときに、『あっ大丈夫だ!』ってホッとして、この中古住宅を選ぶ決め手でした。」

 

 

 

家族の距離、子どもたちの世界

 

この日のお昼ご飯はお手製のピザ。真子さんが下準備をしていると、その様子に気づいた子どもたちがぽつぽつと自然に作業台へ集まってきました。

3人並んで作り方を教えてもらう姿はまるで学校の授業のよう。生地をこねてのばして、皆一生懸命。好きな具を選んでのせた1枚にそれぞれの個性が浮かび上がっています。 大きなイベントではないけれど、きっと大人になってからも覚えているようなそんな時間。

 

 

 

 


▲住まいづくりの時にこだわったひとつはこの作業台。「ピカピカツルツルだったら私たちも気になるし子どもも緊張するなと思ってラフな仕上げにしました。」

 

 

 


キッチンの窓辺の真ん中にさりげなく置かれた鏡。ここに密かな楽しみが隠されていることを真子さんから教えてもらいました。

「この鏡、家全体が見渡せる位置に置いているんですよ。家事をしながら、子どもたちの勉強姿や主人がくつろいでいる様子を見守れるんです。対面するアイランドキッチンでもそれは叶うけれど、自分には向いていないなって思っていて。いつも周りが見えているとどうしても気になってしまうので、背中で気配を感じるくらいが丁度いいです。」

こっそりつくった自分だけの特等席。鏡を見つめる真子さんの目がとても優しくて、こちらも心がまるくなりました。

 

 

 


そうしているうちにオーブンから良い香りが立ち込めてきました。焼き上がったピザをお皿に移して、みんなで支度を整えます。
「いただきます。」さっきまでころころと笑っていた子どもたちも黙々と食べていました。
田村家の食卓はちゃぶ台で、食事中は正座がお約束。もちろん座る席もそれぞれ決まっています。

 

 

 

 

穏やかな時間も束の間に、3人のお腹が満たされたら興味はさっそく次のことへ。

はにかむお姉ちゃんに手をひかれ、招かれたのは畳の寝室。「みてみて!」と浴衣の帯とリネンの布を身体に巻き付けたドレスを披露してくれました。上手に見繕った姿はまるで金魚のようです。

その隣ではお兄ちゃんと弟が枕で相撲のようなものをとりながらお腹をかかえて笑いあっていました。就寝はお布団スタイルという田村家では、寝室も子どもたちの遊び場にもなっているようです。時折り喧嘩に発展しそうにもみえるけれど、お姉ちゃんは終始楽しげです。

 

 

 

根拠はないのにどこか安心する不思議な感覚。3人が保つこの絶妙な均衡は、子どもたちの世界の、子どもたちだけに通じる決めごとがあるからのでしょうか。
「子どもたちはどこに行っても自分たちのペースでハラハラするけれど、楽しいです。なんというか、チーム子どもっていう感じかな。誰が悪いとか謝った方が良いとかも、言えば言うほど揉めるのでもう私たち親は介入しません。でも不思議と子どもたちの間で公正な方へと落ち着くこともあるんですよ。」

 

 

 

 

ずっと繕い続けてきた

 


お兄ちゃんとお姉ちゃんが、カラフルな糸で思い思いに縫ったステッチを見せてくれました。子ども部屋の片隅にあるこのスペースには2つのミシンとトルソーが置かれていて、真子さんの手仕事場になっています。

編み物とレース編みを趣味にしていたお母様の影響もあってか、小さな頃からものづくりが好きだったという真子さん。中学・高校に進むうち、劇団四季をはじめとした舞台衣装作家の仕事に憧れて「つくる人」を目指すように。

やがてその思いは実を結び、つくる人としての暮らしがはじまりましたが、その舞台は東京でした。朝のラッシュや人の多さ、独特の空気……これまで暮らしてきた環境とはかけ離れた生活が真子さんの肌には馴染みにくかったそうです。

 

 

 

 


▲真子さんが愛用しているJUKIの2代目ミシン。1代目は小学校の頃にお母様から譲り受けたもので、自分でできるお手入れを続けて30年間大切にされたそう。

 

 

 

 

「東京の暮らしで結んだ縁もたくさんあったけれど、やっぱり山口で仕事をしようと思いました。それで、丁度Uターンされていたデザイナーの方に弟子入りさせていただくことにしたんです。」
そうは言っても東京と変わらないスピードで働いていたといいます。

「今振り返るとあの頃もハードだったと思います。仕事を深夜に持ち帰って、短い食事を済ませた後、夜更けまで商品のタグ付けや穴あけ作業をしたりして。よく主人にも手伝ってもらっていました。」

 

 

 

 

今は服飾の先生をされながら、衣装製作やお洋服のリメイクも手がけている真子さん。2足の草鞋どころか3足、お母さんの肩書きも数えると4足もの草鞋を履いています。
主な制作時間は家族も生き物も寝静まる、深夜から早朝にかけて。カーテンを開けて朝日が昇る様子や庭木の緑を窓越しに眺めながら、カタカタと静かに縫い進める時間は息抜きにもなっているそうです。

「依頼をいただいてお繕いしたあと、そのお洋服を着たお客さんとばったりでも会うと嬉しいですよね。まだ踏み切れていないのですが、もっとたくさん作ってたくさん届けたいです。もしお店ができるなら庭先にちっちゃな小屋を建てて、興味を持って下さる方に作っていきたいなって考えています。」

小さな作業スペースにそっと佇む制作中のドレスワンピース。真子さんの手でつくられるこの衣装が、誰かの心を健やかにする日を楽しみに思います。

 

 

 

 

 

子どもたちの成長を見守りながらつくることが日常に溶け込んでいる田村さんの日々。
そしてお互いがお互いの時間を大切に、それぞれが心を寄せ合ってつくる、5人での心地いい暮らし。親の空間、子どもの空間が隣同士だからこそ叶う距離感を楽しみながら暮らされていました。

気づきをくれるきっかけは誰かの“つくる”こと、そんなふうに思います。

 

(おわり)

contactお問い合わせ

お住まいに関するお悩み・ご相談、I.D.Worksへの質問等
どんな事でもお気軽にお問い合わせください。
[受付] 9:00〜18:00 [定休日] 水曜日 / 祝日

  • お電話でのお問い合せはこちら083-929-3960
  • フォームでのお問い合せはこちら
  • オンライン相談会についてはこちら