今回の舞台は山陽小野田市セメント町のおとなり、住吉本町(旧:セメント町)。
セメント町は日本初の民間セメント製造会社 小野田セメント(現:太平洋セメントさん)創業の地で、山陽小野田市が工業の街として栄える地盤を支えてきたといわれています。
そんな発展の軌跡が残る地域にこの中古住宅は建てられました。
目を惹く曲線と奥行き。一筋縄ではいかなそうな平屋建築です。
RC造という点もさすがセメント産業の街!と称賛の拍手が止みません。
道路面の格子扉は勝手口。
花壇うしろも土が敷いてあるので園芸を楽しんだり、アウトドアチェアやテーブルを置いて小さな寛ぎスペースにしたり、夢が膨らむ遊び空間です。
間取りは奥に伸びる配置。
車庫らしきシャッターも見えますし、縦列に停めるスタイルですが3台は余裕綽々です。
おや、階段?これはもしや憧れの屋上空間が…!?
(残念ながら劣化があるとのことで昇降は断念。見晴らしは皆さんのご想像のままに…!)
さあさあ、今回も熱が上がってきましたよ〜!
コンクリートの隙間からふわり差し込む光と天井の無垢材。
グリーンはわさわさしているけれど、さっぱり散髪したらカッコのよろしい構えになりそう。
あら、YKKさんの高級玄関ドアですってよ。
玄関は壁に絵画を飾ったり、シューズクロークに調度品や活け花を置いていらしたのかしら。だって天井にスポットライトがあるのだもの。
スススと進んだ廊下の先には……絵画のような風景。
なんとまあ見事なLDKですこと!
公共施設張りのホール空間じゃありません?
リビング壁はさながらミニステージ。
もはやガラスブロックが間接照明に見えてきます。
もともとカラオケ機器、音響や照明設備まで整っていて、以前の家主さんご家族はカラオケがご趣味だったとか。
凝った白の縁取りには照明が埋め込んであるそうです。こだわりっぷりよ。
(現在はスピーカー、照明は撤去されています)
さらに床にはガス栓コンセントがふたつも!
こんなのもう毎日が宴だ縁日だといっても過言じゃない。
だってほら、このスイッチたちも当時を物語ってる!
(スイッチぱちぱち、気分はコンサートスタッフです。)
カラオケリサイタルも思いのままですが、これだけひらけたスペースなのだから、音楽教室、ヨガ、ダンス、お裁縫、囲碁将棋などいろんな教室を開けそうですよ。
はたまたパーティルームや集会所的な場所として、団体さん/会社さんが貸し出すっていうのもアリかもしれません……!
対面カウンターのキッチンは小洒落た感じのアーチ開口。
お酒をずらりと並べたてて、お気に入りのグラスとアイスクーラーをそっと添えたらば。
宴の時だけオープンする、憧れの小さなスナック!
どんな時代も、エンターテインメントは大事。
しかも自分の裁量次第では演者にも観客にも、店主にもなれちゃう。
自由に気兼ねなく、最高に楽しめる舞台を持てるだなんて夢みたい。
キッチンは申し分のない収納量で、天窓設計な点も心が浮き立ちます。
ちなみにこのお家で「アメリカ式住宅」を一番強く感じたのが洗濯機スペース。
キッチン背面に腰壁ほどのスペースと蛇口があるのですが、そこに洗濯機を置いていたことが伺えました。
現実的な暮らしを考えると洗面室のリフォームを考えるか、家電サイズのセレクトに工夫が必要そうです。
残念ながら経年によりクロスがぺろんと捲れているので、ここは要補修箇所ですね。
日本庭園の要素が詰まった庭。
池は閉じられていますが、景石から川や滝の表現を感じとれますし、梅や松、紫陽花などの花木たちにも癒されます。
きっとここは桃源郷だったのでしょう。
小上がりの和室から見える眺めも良いんです。
障子の建具は収まりがすばらしく、壁にぴったり格納されます。
仕切ったり繋げたり、用途に合わせて自由に過ごせそう。
洗面、お風呂もホテルライクな仕様。
脱衣室らしき空間はなさそう。
ここでもアメリカ式っぽさを感じますが、洗面周りがその役割を兼ねてくれそうです。
天井は高くとってあり、開放的な空間。
ハイサイドライトから光が差しみます。
お風呂のタイルは可愛い模様。
ガラスの照明は真四角フォルムを丸くくり抜いた素敵デザイン。
水まわりに隣接している寝室。
クローゼット埋め込み型のエアコンが素晴らしい~。
それにベッド傍の出窓は光を絞る配慮があり理想的、、窓の開閉もできるのでちゃんと風通しできます。
日陰でも育つグリーンを並べたくなっちゃうなあ。
天井にぽっかり空いた円柱を覗いてみると、、なんとシーリングファン!!
い、粋~!こんなの反則すぎやしませんか。
キッチンにもあったのですが、ここ寝室にも壁掛けインターホンが。
当時の2台持ちってかなり贅沢だったのでは。
サンルームはRCむき出しのクールな雰囲気。
シアタールームやグリーンの温室にも良さそうだし、子どもやペットのプレイルームもいいなあなんて。
勝手口付きだし、季節用品をしまう倉庫的な使い方もできそう。
いやあ、LDKとお庭でも充分なスケール感ですがプライベートルームも抜かりない。
家づくりの熱量が凝縮されています。
塀のRCも現場打ちのようなので、おそらくですが ①家を建てる → ②池庭をつくる → ③ガレージと駐車場をつくる、というように壮大な計画だったのでしょう。
昭和最後の年に建てられた平屋ですが、その輝きは今なお健在だと納得です。
ここに庭とガレージもついてきますからね。
そして驚いたのはお値段。ますます心が揺れちゃいます。
正直解体してしまうのは惜しい。
間取りや性能を気に入ってもらえるならば、最低限のリフォームで整えるのをお薦めしたいです。
また当時の設計資料から推測するに、家の大半がRC打ちっぱなしの造りのようなのでクロスを取り払ってむき出しの素地で遊ぶのも一興。
とっても格好良いRC住宅になるでしょうね。(ex.スキーマ建築計画さんの sayama flat)